建築物の設計に関する仕事に、建築士と設計士があります。一見似ている2つの職業ですが、資格や仕事内容の面で明確な違いがあることをご存知でしょうか?
しかし、どちらも建築物の設計に携わるため、求められるスキルは共通しています。今回は、建築士と設計士の資格と仕事内容の違いと仕事のやりがい、両者で共通するスキルについて解説します。
■建築士と設計士の資格の違い
建築士と設計士の違いは、資格の有無で説明できます。
◇建築士は国家資格が必須
建築士とは、建築士の国家資格を取得した人だけが名乗れる職業です。建築士を取得すると、建物の設計、工事監理、指導監督、鑑定評価、行政手続き代行に従事できることが建築士法で定められています。
建築士の資格は、一級、二級、木造という3つの種類があり、設計や工事監理ができる建物の規模や種類が異なります。
一級は建物の種類や規模に制限がなく、すべての建築物を扱うことが可能です。二級の場合、「延べ面積300㎡以下、高さ13mかつ軒高9m以下」の建築物であれば設計と工事監理ができます。
木造の戸建て住宅などの中規模の建物を扱う場合、二級建築士でも十分に活躍できるでしょう。一方、木造建築士の場合、「延べ面積300㎡以下、2階建て以下」の木造建築物に限られます。
◇設計士という資格は存在しない
建築士と異なり、設計士という資格や定義は存在しません。設計は建築士の業務で、設計士はあくまでも建築士をサポートする立場です。
なお、乗り物や機械を設計する人も設計士と呼ばれているため、建設業界に特有の言葉でもありません。ただし、100㎡未満の木造建築物は、建築士資格がない設計士でも設計が可能です。
◇建築士・設計士と建築家の違い
建築家という資格は存在しないため、設計士と同様に自らの判断で名乗ることができます。
建築家と建築士・設計士の大きな違いは、個性的なデザインの意匠設計を得意とすることです。建築士や設計士が設計する建築物と比べて芸術性が高く、著名な建築家が設計した建築物は作品と呼ばれることもあります。
■建築士と設計士の仕事内容の違い
建築士と設計士における、具体的な仕事内容の違いを見ていきましょう。
◇建築士の具体的な仕事内容
建築士の仕事を、設計を始める段階から順を追って紹介します。
・施主とのヒアリング
建築士は施主となるお客様の依頼を受け、希望とする建物を建てるためのヒアリングを行います。施主が希望する建物のデザイン、間取りや構造、設備、予算など、細かな点も聞き出すことが大切です。
施主は基本的に設計について詳しくないため、どのような建物がいいのか、逆に聞かれることも少なくありません。住宅設計であれば、施主の家族構成、ライフスタイルなどを考慮し、最適な動線や間取りの設計を提案することも必要です。
・設計図の作成
施主が希望する建物のイメージが固まったら、イメージを設計図に起こす作業に移ります。CADによる平面図や立体図、鳥観図の作成、ミニチュアの模型の作成などを使い、建物の完成形を説明しながら施主と具体的な打ち合わせをおこないます。
図面を見た時点で施主から別の要望があれば、再び図面を作成し、施主のイメージに合うまで打ち合わせをくり返すのです。
また、建物の構造や工法、資材などで予算が変わるため、施主の希望を叶えつつ、予算内で設計するのが建築士の重要な役割です。打ち合わせを重ね、最終的な基本図面と予算の見積もりに納得してもらえたら、施工に必要な実施設計に移ります。
・施工中の指導監督や進捗確認
実施設計が完了した後、いよいよ建物の施工がスタートします。建設現場における建築士の仕事は、現場監督や施工管理技士との打ち合わせ、職人への指導監督、工事の進捗確認です。建設現場で設計の修正が必要になる場合、修正案を考えることも建築士の仕事です。
◇設計士の具体的な仕事内容
設計士の仕事内容を、建築士と同様に順を追って説明します。
・施主との打ち合わせ
設計士も建築士と同様に、施主と直接打ち合わせを行います。ただし、建築士の打ち合わせに同席する、または営業担当者とともに打ち合わせをするのが一般的です。設計士は施主の要望やこだわりなど、細かい部分までヒアリングすることが求められます。
・小規模の木造建築物の設計
100㎡未満の木造建築物は、建築士資格がない設計士でも設計が可能です。そのため、小規模な建物の依頼を受けた場合、設計士が設計を任されるケースもあります。また、資格が必要な範囲の設計では、一部分のみを設計する場合もあります。
・建築士の業務補助や雑務
設計に必要な書類の作成や雑務といった、建築士の設計補助に関わる雑務も仕事の1つです。建築士の業務補助は、設計士の経験を積むうえで大いに役立ちます。書類作成でも施主の需要や傾向を学べるので、単なる雑用とは異なることを覚えておきましょう。
■建築士と設計士のやりがいと求められる能力
同じ設計に携わる建築士と設計士は、仕事のやりがいや求められる能力に違いはあるのでしょうか?
◇建築士の仕事のやりがい
施主とのヒアリングを通して図面を作成した後、実際の施工現場に出向くなど、建物がゼロから完成するまでを見届けます。そのため、施主の希望する建築物が形になること、ゼロからモノ作りをする楽しさは、建築士ならではのやりがいといえるでしょう。
また、建築士が手掛けた建物により、人々の暮らしが豊かになったり、活気ある街に生まれ変わったりします。戸建て住宅やマンション、学校や図書館などの公共施設は、人々が利用することを前提に建てるものです。建物で人を笑顔にできたり、街づくりの一役を担ったりすることは、結果的に大きな社会貢献につながります。
◇設計士の仕事のやりがい
設計士にできる仕事は限られているのは確かです。しかし、施主と綿密なヒアリングを行う中で、こだわりや要望をしっかり耳を傾けることで施主と信頼関係を築くことができます。施主に喜んでもらえる建物が完成した際は、建築士とともに設計に携わった身として、大きなやりがいを感じるようです。
◇建築士・設計士で共通する必要な能力
設計できる範囲は異なりますが、設計をするうえで必要な能力は建築士と設計士で共通しています。設計の世界に挑戦したい方は、どのような能力が必要になるかチェックしておきましょう。
・感性と創造性
建物を設計するにあたり、建物のデザインを生み出す感性と、ゼロから設計を考える創造性が必要です。
建築士に建物を依頼する施主は、使いやすさや快適性はもちろん、美しさやデザイン性を求めます。過去の建築デザインに関する知識はもちろん、最先端のデザインも勉強することが大切です。また、設計は白紙の状態から設計を行うため、創造性が豊かである人が向いています。
・空間把握能力
設計をするうえで重要なことは、使う人が住みやすく、使いやすくなるように空間をイメージすることです。空間をイメージする空間把握能力とは、目で見た物体の位置関係を素早く、かつ正確に認知する能力で、学校では教えてくれないスキルでもあります。
年齢を重ねると空間把握能力が低下するため、さまざまな建築物を見たり、図面の寸法と実際の大きさを感覚的に把握したりして、空間把握能力を鍛えましょう。
・コミュニケーション能力
施主が満足できる建物を建てるには、施主の要望をとことん聞き出す必要があります。施主の年齢層も幅広いので、さまざまな年代の方から話を引き出せるコミュニケーション能力が求められます。
・提案力
施主とコミュニケーションを取る中で、施主の要望やニーズを捉えて最適な設計を提案する提案力も必要です。この設計がなぜ最適なのか、わかりやすく説明できる説明力も身に付けると、仕事が円滑に進むでしょう。
・理系のスキル
建物を設計するには、物理の構造力学、地盤の知識、室内に発生するカビや微生物の知識、塗料や材料に含まれる化学の知識など、さまざまな理系のスキルが必要です。建物の強度を確保するために、構造を計算する数学の知識を使うこともあります。設計に携わる方は、幅広い理系分野に興味や関心を持つことが大切です。
■まとめ
建築士と設計士はどちらも設計に携わる仕事ですが、建築士は国家資格を持つ、設計士は資格がないという点が大きな違いです。建築士は設計や工事監理が主な仕事で、設計士は設計の補助、小規模な木造建築物の設計に限られます。
施主の要望を形にするという意味では、どちらの仕事も大きなやりがいがあります。施主が満足できる建物にするためには、コミュニケーション能力や提案力、デザインを形にする感性や空間把握能力、幅広い理系の知識が求められます。
そして、設計士は建築士のもとで働き、建築士の資格を取得する立場です。建築士と設計士の違いを把握することで、設計の仕事のキャリアに役立てることや、それぞれキャリアチェンジも可能になるでしょう。
キャリアチェンジを考える方は、建設業界の転職を相談できる現キャリのキャリアアドバイザーにぜひご相談ください。
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