建設業界は土木と建築の2つの大きな分野に分けられます。土木業界は生活基盤を支えるインフラ整備において大きな役割を担っていますが、土木業界は「働き方改革関連法」の施行により、労働環境の大幅な見直しを迫られています。時間外労働の上限規制をはじめとする改革は、長時間労働の是正と健全な労働環境の構築を目指しますが、高齢化と労働人口の減少に伴う人材不足が業界の大きな課題となっています。今回は、土木業界の現状とこれらの課題に対する取り組み、今後の業界の発展について詳しく解説します。
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そもそも土木業界とは?
土木業界は、私たちの生活基盤ともいえるインフラ整備に不可欠な役割を果たしています。この業界で行われる工事は、道路やトンネル、鉄道、空港、ダムなど多岐にわたり、日常生活を支える重要なインフラの構築を担っています。これらの施設は、人々の暮らしを豊かにするだけでなく、都市機能の向上や新たな街づくりへの貢献も見逃せません。
冒頭で述べたように、土木業界は建築業界とともに、人々が使う空間を創り出す建設業界において重要な一翼を担っています。建築業界が住居やビル、公共施設などの人が生活する空間の創出に注力する一方で、土木業界はこれらの空間を結びつけ、支えるインフラの整備を行うことで、社会全体の発展と機能性の向上に寄与しています。
◇土木工事の種類
土木工事と一口にいっても、以下のようにさまざまな種類があります。
・道路工事:道路改良工事、道路開設工事、道路の構造物に関する工事
・トンネル工事:トンネル本体工事のほかに、トンネルを造る工法によってシールド工事(機械で土を掘り進める)、または推進工事(作業員が内部で作業する)にわかれる
・橋梁工事:橋を造る工事で、PC橋梁工事、PCロックシェード橋梁工事、コンクリート構造物の橋台工事、橋脚工事がある
・河川工事:河川を整備する河川工事、河川改修工事、河川構造物工事のほかに、水底の土砂を取り除く浚渫(しゅんせつ)工事も含まれる
・ダム工事:ダム建設工事、貯水池ダム工事、砂防ダム工事の3種類
・水道関連工事:下水道の配管工事、下水道処理場の敷地造成工事など
・空港建設工事:空港の施設や滑走路を造る工事
・土地区画整理:土地を整地する工事で、土地区画整理工事、土地造成工事、宅地造成工事がある
また、道路工事や橋梁工事、ダム工事、トンネル本体工事、下水道工事などの大規模な工事は「土木工作物」に該当します。
土木工作物を建設するには、総合的な企画や指導、調整が建設に必要です。そのため、元請けの立場で請け負う工事だけが、建設業許可における「土木一式工事」と見なされます。
土木業界の現状は?
2024年の土木業界は、人手不足、長時間労働、技術の高齢化などの課題に直面しています。これらの問題に対処するため、業界ではデジタル化の推進(DX)、労働時間の見直し、そして人材育成と処遇改善に向けた取り組みが進められています。
デジタル技術の導入、特にテレワークの推進やAIを活用した現場作業の効率化は、作業員の負担を軽減し、労働生産性を高める重要な手段とされています。国土交通省が進める「i-Construction・インフラDX推進コンソーシアム」では、施工から検査までの工程をデジタル化し、効率的な作業遂行を実現する建設業のICT化を推進しています。
さらに、建設業界では長時間労働の是正にも力を入れており、週休2日制の導入や時間外労働の上限規制への適応が進められています。これらの取り組みは、労働者にとって働きやすい環境を整備し、業界全体の生産性向上に寄与することが期待されています。
技能労働者の処遇改善としては、賃金水準の確保や社会保険未加入への対策が進められ、女性の活躍促進や教育訓練の充実も図られています。これにより、人材の確保と業界の持続的な発展を目指しています。
また海外でのインフラ整備への展開も活発に進められており、日本の技術力や品質の高さを国際的にアピールすることで、新たな市場を開拓し、国内雇用の創出にも寄与しています。
建設業界の中でも特に中小企業や下請け企業は、短納期への対応や長時間労働が常態化していることから、労働条件の改善が急務です。週休2日を確保できている企業はわずかであり、技能に見合わない給与や社会保険未加入など、労働者の処遇改善が求められています。
これらの取り組みを通じて、土木業界は現在抱える課題の解決と、将来に向けた持続可能な発展を目指しています。
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土木業界の課題と今後に向けた解決策
土木業界は高齢化や人手不足、廃業の増加、インフラ老朽化という複合的な課題に直面しています。現在、これらに対処するため、技術革新を活用した作業効率の向上、若手の育成と採用促進、健康管理の強化、そして老朽化インフラの更新とメンテナンス強化が急務となってきています。ここでは、これら土木業界の課題と今後に向けた解決策について解説していきます。
1:高齢化
土木業界の人手不足は高齢化が一因であり、この問題への対策は切実です。たとえば、国土交通省のデータによると、現場労働者の約3割が55歳以上で、これらの高齢者が近い将来に退職すると、後継者不足がさらに深刻化します。この問題に対処するためには、高齢者の経験を生かしつつ、彼らが健康に長く働ける環境を整備することが重要です。
具体例として、最近の技術革新が高齢労働者の支援に役立っています。たとえば、ウェアラブル技術を用いた健康管理システムが、熱中症のリスクが高い夏場の作業中に労働者の体温や心拍数を監視し、異常があればアラートを発するようになりました。これにより、高齢者も含めた労働者の健康管理が容易になり、安全に作業を継続できるようになります。
またICT技術を活用した遠隔操作が可能な建設機械の開発も進んでいます。これにより重労働が必要な作業を遠隔から行うことができ、高齢者でも体力に負担をかけずに作業を続けることが可能になります。さらにAI技術を活用した効率的な作業計画の立案ツールも導入されており、これにより現場の作業効率が向上し、高齢者が無理なく働ける環境が整っています。
これらの取り組みは、高齢者が土木業界で活躍し続けるための支援となり、高齢化による人手不足の問題を緩和することに貢献しています。しかしこれらの技術導入には時間とコストがかかるため、業界全体での普及を加速させるためにはさらなる支援策と啓蒙活動が必要です。
2:人手不足
土木業界は、人手不足という深刻な課題に直面しています。特に高齢化が進むなかで経験豊富な職人の引退が予想され、若手の採用が不足している状況は大きな懸念事項です。この人手不足は学生の理系離れや土木・建築への入学者減少にも影響されています。さらに、土木や建築業界に対する「きつい・汚い・危険」というネガティブなイメージや待遇面の問題も若者の業界離れを加速させています。
この課題に対処するため、国土交通省は「建設業4改革加速化プログラム」を推進しており、長時間労働の是正や適正な給与の保証、社会保険への加入促進、生産性向上に向けた施策を展開しています。こうした取り組みは、業界が若手にとって魅力的な職場環境を提供するための重要なステップとなっています。
また、技術革新も土木業界の変革に大きく寄与しています。ICTやAIを活用したi-Constructionの推進や、ドローンによる3次元測量、ICT建設機械の自動制御などは、生産性を大幅に向上させることで人手不足を補い、より効率的で安全な作業環境を実現しています。このような革新的技術の導入は、休日の確保や作業効率の向上にも寄与し、土木業界の持続可能な発展を支える鍵となっています。
これらの取り組みを通じて、土木業界は人手不足の解消と技術革新の推進を図り、新しい時代の要請に応える業界へと変革していくことが期待されています。
3:廃業の増加
2023年の土木業界を含む全国企業の休廃業・解散の動向を見ると、前年比で10%の増加を記録し、総数は5万9,105件に達しました。特に企業が経済的困難や後継者不足などさまざまな理由で活動を停止してしまうケースを指す「あきらめ廃業」と呼ばれる現象が広がっています。
一方、東京商工リサーチの報告によると、2023年の「休廃業・解散」は過去最多の4.97万件を記録しました。建設業は8,041件とわずかに減少しているものの、小売業など他業種では顕著な増加が見られ、全体的に企業の休廃業・解散が増加している状況が伺えます。赤字率は47.6%に達し、これは過去最悪の数値です。特に60代以上の企業代表者が休廃業企業全体の約87%を占めるなど、高齢化も深刻な問題となっています。
これらの数字から、日本の土木業界も含めた多くの業種で企業の休廃業や解散が増加していることが分かります。経済的な困難に加えて後継者不足や代表者の高齢化など、複数の要因が絡み合って休廃業・解散の増加を加速させているようです。これらの課題に対して具体的な支援策や後継者育成、経営改善の取り組みなどが求められています。
2024年の土木業界は、新型コロナウイルス感染症時期に受けた融資の返済時期が来ていることや、物価高騰が原因で、多くの企業が経営困難に直面しています。小規模な企業がこの状況の影響を受けやすく、倒産や廃業が増加しているという現状があります。政府からの融資返済の支援策や借り換え保証制度が設けられているにも関わらず、依然として厳しい状況にあるといえます。
4:インフラの整備
国土交通省によると今後20年で、建造から50年以上経過するインフラの割合が、さまざまな分野で大幅に増加すると予測されています。これらは高度成経済成長期に建設されたもので、道路、橋、ダム、トンネル、上下水道、空港、鉄道、港湾岸壁、河川管理施設など、人々の生活を支えるあらゆる設備が含まれています。
さらに、近年増加している豪雨災害などの自然災害をきっかけに、老朽化したインフラを見直し、長寿命化や自然災害への対策強化を進めようとの動きが強まっています。
一方で土木業界ではAIやICTが導入されつつあり、ドローンやAIを活用した測量などの機械化・IT化の例も増加しています。こうした技術により、少ない人員でのインフラ整備が可能となり、老朽化したインフラの改修や更新を進めるうえでの一助となっています。
以上の状況から、土木業界におけるインフラ整備は、老朽化という大きな課題に直面しつつも、技術の進歩によってその解決に向けた動きが加速していることがわかります。
2024年には、JR西日本やNTTグループ、メガバンクなど大手6社が、全国のインフラ老朽化問題に対処するため、自治体支援の新事業を共同で開始します。この事業は、デジタル技術を用いた効率的な施設点検や、修繕・更新に必要な資金調達をサポートすることで、インフラの維持管理や更新に対する挑戦を支えるものとなっています。
まとめ
土木業界は生活基盤と環境を支える重要なセクター(分野)として、防災やインフラの老朽化対策、海外への技術輸出などで引き続き高い需要が予想されます。
深刻な課題としては人手不足が挙げられますが、ICTやAIの導入による生産性の向上と、働き方改革関連法の施行による労働環境の改善が進んでいます。時間外労働の上限規制や割増賃金の引き上げも新しい働き方への移行を後押しするものです。これらの変化が土木業界の新たなチャレンジにつながり、よりよい労働環境の実現に向けた一歩となるでしょう。
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